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【特集】食品分析における最近の話題 (PartⅩⅣ)

フラン、4-メチルイミダゾール、及びトランス-脂肪酸の米国に於ける現状

カリフォルニア大学 環境毒性学部 柴本崇行

始めに

フラン、イミダゾールを含めて多数のヘテロ環化合物がメーラード反応によって食品中に生成される現象は以前から知られている。従って、今まで多数のヘテロ環化合物が食品・清涼飲料水(特に熱加工された)の中に見つかっている。これらの化合物は、元々食品に加熱調理臭を与えるものとしてフレーバーの見地から研究されてきたものである。最近、特にフランと4-イミダゾールの発ガン性が報告されてから、各種食品・飲料水中に存在するそれらが注目を浴びだした。従ってこの小論では、フラン、4-イミダゾールに関して、食品中の存在、毒性及び、現在米国に於けるそれらの規制について記述する。同様にヘテロ環化合物ではないが、最近注目を浴びているトランス脂肪酸についても記述する。

食品・飲料水中のフラン

フランは1938年にコーヒー中に発見されたのが最初であり、その後多数の食品・飲料水中に報告されている。例えば、今までにコーヒー中に同定されたヘテロ環化合物の数は400種類以上あるが、この中でフラン化合物の数が圧倒的に多く144種類に及ぶ。これら、ヘテロ環化合物の中から、これまでメーラード反応によって生成された五員環化合物の特性を図1に示してある。

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表1では各種食品・飲料水中に報告されているフランの量が示してある。やはり、量的にもコーヒー中に存在するものが最高であり、3μg/kg~5,050μg/kgと広範囲に渡っている。最近、特に注目を浴びているのが、ベビーフード中に存在するフランで、その量は1μg/kg~172.7μg/kgである。一般に、乳幼児は大人よりも毒性に関して敏感であるのが問題視される理由である。その他、加工食品以外の野菜や果物中にも報告されている。

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フランの毒性

ガンや肝臓疾患等の発生が、かなり高濃度のフランを実験動物に与えた場合に起こることが知られている。しかし、フランの毒性に関する情報は、未だに不十分である。従って、The National Toxicology Program (NTP)を中心に、特に慢毒性に関する研究が鋭意なされている。表2に、現在入手可能なフランに関する毒性の研究結果を示してある。これらの結果から、フランはNTP (1993) とInternational Agency for Research on Cancer (IARC) (1995) よって、ガンを発生させる可能性のある化合物として指定された。従って、現時点では、フランは発ガン性可能物質ということになる。

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フランの米国に於ける規制

フランの食品中の規制値は、まだどの関係官庁でも決められていない。EPAでは、動物実験で得られたNOAEL (None Observable Adverse Effect Level)―毒性が現れない最高の量―が1.4 mg/kg b.w./dayであるので、UF (Uncertainty Factor) 1000を使い、体重70kgの人間の場合で一日のフラン摂取量が0.1mgを超えない様に忠告している。カリフォルニアProposition65は、フランを1993年に発がん性物質として登録したが、規制値等の数字はまだ検討中である。フランは、アクリルアミドの様に加熱によって食品中に生成するものであり、実際に数字を決めて規制するのは非常に難しい。

 

食品中の4-メチルイミダゾール

4-メチルイミダゾールは最近、上記のNTPに発ガン性物質として指定されてから、俄然各方面の注目を浴びる様になった。イミダゾール類は図1に示してある様に、フラン同様加熱によってメーラード反応により生成される。しかし、同じヘテロ環化合物と違って特徴ある匂いを有していないので、最近までほとんど注目されなかった。それに水溶性であるので、フレーバーの研究からアクリルアミドの様に見逃されていた。

4-メチルイミダゾールそのものはすでに19世紀の中頃にジカルボニール化合物とアンモニアから合成されている。この合成法はキャラメル色素の生成法として多少の改良をされ、現在に至るまで使われている。これらのことから、糖とアミノ酸より、加熱によって4-メチルイミダゾールが食品中に生成されることは、容易に推定出来る。

1960年代に、グルコース/アンモニア系のメーラード反応で、4-メチルイミダゾールの生成がすでに報告されている。その後、1970年代に糖/アミノ酸系モデルによるメーラード反応からも4-メチルイミダゾールの生成が報告されている。最近、単糖/アンモニアのメーラード反応系でグルコースから0.49~0.71mg/mL、ラマノースから5.73 mg/mLの高濃度の4-メチルイミダゾールの生成が報告されている。

このグルコース/アンモニア系は現在キャラメル色素の製造に広く用いられている。従って、キャラメル色素を使った食品・飲料水中に4-メチルイミダゾールが存在する事は容易に推測され、事実、7~200ppmの4-メチルイミダゾールが各種キャラメル色素から報告されている。その後、表4に示してある様に、多種の食品・飲料水中から4-メチルイミダゾールが分析報告されている。特に、黒ビール (dark beer) から高濃度 (1.38~ 28.03μg/mL) の4-メチルイミダゾールが報告されているが、これは、かなり濃いキャラメル色素を使っている結果と推測出来る。醤油の中にも、かなり高い濃度 (0.11~3.4ppm) で4-メチルイミダゾールが見つかったが、ソースとして使われる量は限りがあるのでそれほど問題視する必要はないと考える。しかし、コーラ系飲料水の場合は人によって違いはあるが、一回に摂取する量 (200μg/bottle) は醤油とは比べ物にならない量である。また、コーヒー中の4-メチルイミダゾールの量も問題視する様な量ではないが常に摂取するものとしては注目に値するであろう。

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4-メチルイミダゾールの毒性と規制

4-メチルイミダゾールは、前述のNTPによって発がん性物質として2007年に指定された。それに従って、2011年1月にカリフォルニア州で4-メチルイミダゾールを、州民にとってガンを発生させる可能性のある化合物としてProposition65に登録され、同時に一日の摂取許容量を16μgに設定した。これは、単純計算でコーラ飲料水を1ビン飲めば優に1日の摂取許容量を超えてしまう値である。

NTPが4-メチルイミダゾールを発がん性物質として指定したのは、以下の動物実験の結果からである。4-メチルイミダゾールをラットに2年間170 mg/kg b.w.与えたところ、殆どのラットからガンの生成が認められた。マウスを使った実験からも、同じ様な結果が得られた。その後、多数の4-メチルイミダゾールの発がん性を示す報告があるが、上記の結果とさほど違ったものはない。

現段階では、4-メチルイミダゾールを規制するのは未だに情報不足と言うのが一般の見方であり、FDAでは、4-メチルイミダゾールは発がん性物質であることは認めているが、量的な規制をするのは次期早急としているのが現状である。従って、Proposition65が一日の摂取許容量を16μgに設定したのは、はっきりとした根拠に欠けるのではないかと言う批判がある。事実、スターバックス等の大手コーヒー産業が、カリフォルニア州を相手にProposition65によって損害を被るとの理由で、訴訟を起こしているのが現状である。今後、最終的に4-メチルイミダゾールの規制を確立する為にはかなりの紆余曲折が予測される。

 

食品中のトランス脂肪酸

トランス脂肪酸は、植物油の二重結合に水素付加させて飽和脂肪酸を製造するときに、部分的に水素付加された場合に生成する脂肪酸で、図2に示してある様な構造を有する不飽和脂肪酸である。トランス脂肪酸は、極僅かではあるが、天然にも(例えば肉類や乳製品中)存在する。しかし、トランス脂肪酸は必須脂肪酸ではない。又、部分的に水素付加されて出来たトランス脂肪酸は、天然に存在するトランス脂肪酸より、毒性が高いとされている。

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かつて人間は、トランス脂肪酸をミルク製品から極微量に摂取していたが、上記の植物油を水素付加する事によって生産される固形油(例えばマーガリン)の需要が増すに従って、トランス脂肪酸を摂取する量が非常に増加し、水素付加された固形油は、日持ちもよく多数の食品に使われている。それ以上に、常温で固形を保たせる為に、液状油よりも、水素付加された半固形油が、盛んに加工食品に使われている。但し、水素付加された固形油の45%、ショートニングの30%、マーガリンの15%は、トランス脂肪酸であると言うことを消費者は考慮すべきである。

 

トランス脂肪酸の毒性

元々、オメガ3-脂肪酸等、脂肪酸の一種は、血中のコレステロールの量を低下させるサプリメントとして使用されてきた。従って、トランス脂肪酸も、サプリメントとして米国のFood and Drug Administration (FDA) に認可されてきた。しかし、最近になって、トランス脂肪酸は心臓疾患の原因になる事がわかり、FDAはトランス脂肪酸の摂取を出来る限り減らす様、忠告するに至っている。

トランス脂肪酸を含んだ水素付加された植物油は、かれこれ100年近く食されている。特に20世紀後半から加工食品が大量に生産されるようになってから、人間がトランス脂肪酸を摂取する量は、格段と増えてきた。例えば、現在、平均的アメリカ人は一日5.8グラムのトランス脂肪酸を摂取し、それは全カロリーの約2.6%にあたる。

最近トランス脂肪酸による健康障害が指摘される様になったが、トランス脂肪酸の明確な毒性に関しては、現在まだ研究中である。一つの理論として判っているのは、人間のリパーゼはシス脂肪酸のみを代謝し、トランス脂肪酸には無効であるということである。リパーゼは水溶性の酵素であらゆる脂肪分を分解・代謝する能力があり、体内の脂肪分の量を調節するのに欠かせない酵素である。従って、トランス脂肪酸が分解されずに血液中に残ると、動脈硬化等の疾患の原因になる。トランス脂肪酸の心臓疾患に対する励起機構はよく判明しているが、糖尿病に対する励起機構は、まだ研究の段階である。米国に於いては、毎年33万から10万人が、トランス脂肪酸による心臓疾患で、死亡しているという報告がある。

その他トランス脂肪酸が関与している疾患として、アルツハイマー、ガン、糖尿病、肥満、肝臓疾患、女性の不妊症、鬱病等が挙げられる。

 

米国に於けるトランス脂肪酸の規制

トランス脂肪酸摂取量の規制は現時点では連邦政府・州政府共、行っていない。しかし、食品製品にトランス脂肪酸の存在の表示(ラベリング)を義務づける規則はFDAによって2003年7月11日に各生産者に通達され、2006年1月1日に規制が実行された。しかし、一食あたり0.5グラム以下であれば、法律外であると規制されているが、この量が適切であるかということは現在検討中である。

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連邦政府以外では、カリフォルニア州がトランス脂肪酸に対する健康障害について、積極的に取り組んでいる。例えば、2005年5月にカリフォルニアのTiburon市がトランス脂肪酸フリーの油を、レストランで使用する様、規制をした全米で最初の市になった。但し、トランス脂肪酸の発ガン性や遺伝毒性は報告されていないので、Proposition65のリストには載っていない。その他の州、郡、市では2005年頃からトランス脂肪酸の有害性について注目しだしたが、特別な規制には至っていない。それら中央・地方政府の組織は個人の消費者に対するよりもむしろ食品生産者やレストランに対して、トランス脂肪酸使用の減少を奨励しだしたのが現状である。しかし、心臓疾患はガンと並んだ死亡率を持ち、飽食にも通じた問題を含んでいるので、トランス脂肪酸に対する現在進行中の研究又は規制については注目していくべきである。

 

終わりに

現在米国では80,000以上の化合物が使用登録されており、毎年、約2,000の新化合物が、食品用を含めた多数の使用目的の為に、紹介されている。しかし、全ての化合物が人間にとって安全と決められている訳ではない。勿論、食品に関係している化合物はごく限られたものであるが、食品に直接関係ない化合物でも、一度廃棄されるか、なんらかの現象で環境に入ればいずれは食物中に取り入れられ、我々の体内に取り込まれる可能性はある。従って、人体に直接・間接に暴露する全ての化合物の安全性を評価、規制するのが理想的であるが、それは不可能ではないが、非常に難しいことである。特に食品に限っても、フランや4-メチルイミダゾールの様に調理によって生成するものを評価、規制するのは困難を極めることである。FDA・NTPでも、それら所謂フレーバー化合物の毒性評価に関しては、緒に就いたところである。

 

参考文献:

  1. Heppner, C. W.; Schlatter, J. R. Data requirements for risk assessment of furan in food. Food Addit. Contam. 2007, 24, 114-123.

  2. Crews, C.; Castle, L. A review of the occurrence, formation, and analysis of furan in heat-processed foods. Trends Food Sci. Technol. 2007, 18, 365-372.

  3. FDA Action Plan for Furan in Food.

    http://www.fda.gov/

  4. Moon, J.-K.; Shibamoto, T. Formation of carcinogenic 4(5)-methylimidazole in Maillard reaction systems. J. Agric. Food Chem. 2011, 59, 615-618.

  5. NCI Technical Resources, Inc., Contract No. NO1-CP-56019. 2-Methylimidazole/4-Methylimidazole.

  6. Fatty acids and heart. http://heartdisease.about.com/cs/cholesterol/a/Transfat.htm

  7. Trans Fat: What is it? Where does it come from? and Why haven’t we heard anything about it?

    http://www.vanderbilt.edu/ans/psychology/health_psychology/Transfat.htm

     

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【特集】食品分析における最近の話題 (PartⅩⅣ)

放射線照射食品の安全性について

大阪府立大学 地域連携研究機構・放射線研究センター 古田 雅一

 

1はじめに1)

20世紀における急速な科学技術の発達は、人類の生活向上に多大に貢献した一方、地球温暖化やオゾン層の破壊による有害紫外線の増加など、顕著な地球環境の悪化をもたらした。地球環境の悪化は農業に悪影響を及ぼす恐れが強く、急激な人口増加にあえぐ発展途上国を中心に食料確保が大きな国際問題となりつつある。

他方、食品衛生に目を転ずると、わが国で昨年起こった生牛肉「ユッケ」の食中毒は今まで病原性が低いと考えられてきた病原性大腸菌O111株の汚染が原因であった。またドイツでは病原性大腸菌O104株が原因とされるキュウリ、モヤシによる食中毒の発生、アメリカで発生したマスクメロンのリステリア菌による食中毒も記憶に新しい。これらの事例は、コールドチェーンの発達している先進諸国においても食中毒がいまだに食の安全を脅かす最重要課題であることを示している。

ガンマ線、電子線、エックス線などを農産物や食品に照射すると、腐敗や食中毒の原因となる食品に付着した微生物(細菌、酵母、カビなど)が死滅するとともに、野菜、生鮮果実の場合には成熟、発芽、老化等の生物的変化が抑制される。これらの照射効果を利用した放射線照射技術、すなわち“食品照射”は先進諸国を含め、世界中で猛威を振るっている食中毒に対し、残留性のある薬剤に代わる防徐法、農作物の検疫に広く用いられてきたオゾン層破壊原因物質、臭化メチルの代替法として、国際的に実用化が進んできている。世界中では、既に400,000トン以上の食品が照射されており、その経済規模は1兆6000億円に達している2)。食品照射の安全性については、その開発段階の1960年代から検討され、すでに国際機関をはじめ、多くの国々で安全性が公式に確認されている。しかしながら放射線の性質や食品に与える影響について理解することは、学校教育の中で放射線について学習する機会がなかった為か、「食品に放射線が当たると食品にはもともと含まれないあらたな発ガン性や毒性のある有害な化合物が生じないか?」という素朴な疑問に加えて放射線が農作物や食品に与える影響や、安全性検討のプロセスに疑問を持つ消費者も多く、食品照射に反対する消費者団体も存在する。

本解説においては最近国際的に実用化が進みつつある、食品照射の安全性検討の要点について概観し、照射食品の安全性に対して正しい理解促進の一助としたい。

2. 食品照射の原理1),3

放射線が生体に吸収されると、生体内の主成分である水分子がイオン化され、OHラジカルをはじめとする活性酸素として、染色体やDNAなどの生体物質とラジカル反応を起こし、細胞が死に至る。これにより細菌、カビ、酵母のような微生物も殺滅できるため、医療用具の滅菌や、農産物や食品の腐敗、食中毒を防ぐ効果が期待できる(表1)。

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わが国においては、医療用品の滅菌法に60Coガンマ線、高エネルギー電子線を用いる「照射法」が、日本薬局方に収載され、普及している。農産物や食品については、放射線の量や照射条件を変えることにより、殺滅菌に加えてジャガイモの芽止めなど様々な農産物の成熟、発芽、老化等、収穫後の損耗の原因となる生理的変化が抑えられ、その結果、野菜・生鮮果実の衛生化や、保存期間の延長が可能となる(表1)。わが国では、ガンマ線照射によるジャガイモの芽止めが許可されており、1974年1月から、北海道の士幌町農業協同組合で実用化されている。食品照射は、温度上昇もほとんどないので、生鮮品・冷凍・冷蔵品にも適用でき、かつ化学薬剤を使用しないので、環境や人体への危害もない。従って、従来エチレンオキサイドに頼っていた香辛料の殺菌や、臭化メチルによる勳蒸に頼っていた検疫目的の穀物の殺虫処理、さらには冷凍食品など加熱できない食品の殺菌にも利用できる利点がある。また残留毒性の心配がないため、薬剤殺菌の有効な代替になり得る。

 究きゅう放射線には多くの種類があるが、食品照射に利用できる放射線は、60Coおよび137Csのガンマ線、エネルギーが1000万電子ボルト(10MeV)以下の電子線、エネルギーが500万電子ボルト(5MeV)以下のエックス線に限られている。これは放射線を照射した食品の中に、放射能が誘導されるのを防ぐためである。言い換えると、これらの放射線を使用するかぎり、照射した食品が放射能を帯びる心配はない。これらの中で現在、最も多く利用されているのは食品中での透過力が高い、60Coガンマ線(1.13、1.31 MeV)であり、137Csは商業用施設には利用されていない。

実際に食品照射の研究が本格化したのは、第二次世界大戦後である。米国におけるジャガイモの芽止めの研究を皮切りに、わが国も含め世界各国で研究がすすみ、1950年代には殺菌、殺虫、熟度調整など、現在用いられている食品照射の技術が確立した。また照射食品の安全性、食品としての妥当性の評価に関しても、1950年代より強い関心が払われ、欧米やわが国をはじめ、国際的に多くの研究が実施されてきた。

3. 食品照射の安全性検討の歴史と国際機関の見解3),4

3-1. 米国における検討

先に述べたように、照射食品の毒性として間題になるのは、先に述べた誘導放射能以外に、放射線照射により農作物や食品中に発ガン性、変異原性など人体にとって有害な物質の生成である。すなわち、放射線照射により、放射線照射特有の分解生成物が食品中に生じ、その中には発がん性や毒性を持つものもあるかもしれない、という考え方である。これに従い、米国食品医薬品局(FDA)は1958年に照射食品を食品添加物の範疇にするとし、照射装置の基準を新たに設定した。これにより、137Cs、60Coγ線、10MeV電子線、5MeV、X線という現在の基準の骨格が出来上がった。また、代表的な食品について調べたデータを同じ食品群に含まれる全ての食品に流用できるとした。

米国においては、1950年代から60年代にかけて米国陸軍や、米国原子力委員会により実験動物を用いた多くの毒性試験が行われ、これらの研究成果を基に、米国陸軍は上記のFDAの基準に従い、照射ベーコンの許可申請を行い、半年後の1964年2月に許可された。これに引き続き、いくつかの照射食品が許可されたが、1968年にFDAは照射ベーコンの安全性データに不備があるとして、米国陸軍に追加データを要求したが、期限内にデータが提出されなかったため、照射ベーコンの許可は取り消された。しかしながら、その後、毒性試験は継続されることとなり、米国陸軍は、1971年から1978年にかけて高線量照射した牛肉、豚肉、ハム、鶏肉に対して、再度長期毒性試験を行った。その結果、鶏肉に関しては、一定の成果が得られたが、他の肉類については、実験の不備のために評価に耐え得る成果を得ることができなかった。

この事態を重く見た米国議会は、研究の進捗状況を調査し、照射食品の安全性の確認には直接的な動物試験を用いずに、放射線化学の成果を生かして、FDAの許可を得られる最小限の試験にとどめることを提言し、1983年までにFDAから照射食品に関する許可を取り付けるよう米国陸軍に勧告した。

一方、FDAは1980年に陸軍の試験結果を待たずに独自の新しい評価基準を立案することとし、これまでの研究から得られていた放射線分解生成物のデータを基に、「1kGy以下の線量では分解物の生成が無視できるので無条件許可、1kGy以上では食事中に占める割合が0.01%未満ならばこれも無条件許可、0.01%以上では一定の毒性試験を行う」という指針を策定した(図1)。FDAにおいては、1982年までに入手可能な400件以上の照射食品の毒性試験(亜慢性毒性、慢性毒性、催奇形性、変異原性)についての報文について、系統的な検討が行われ、適切な設計の下に行われた試験において、照射食品の安全性に疑問を呈する結果は得られていないことを確認した。なかでも米国陸軍により計画され、米国農務省の支援のもと、ラルテック社によって実施された134トンもの照射鶏肉を用いた大規模な動物試験は、統計学的に最も優れたものであると考えられている。1985年にFDAは、上記の基準に従い、豚肉の照射を許可して以来、肉類、果物類、レタス、生卵、香辛料、乾燥野菜など現在までに許可された全ての照射食品の審査にこの基準が適用されている。

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3-2.  国際機関における検討3),4)

照射食品の健全性研究の必要性は1961年の国連食糧農業機関(FAO)、国際原子力機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)の合同委員会で強調され、さらに1964年の合同委員会でも検討された。当時は米国と同様、放射線照射により食品中に放射線分解生成物が生じるとの考え方から、これを食品添加物と見なして研究が行われた。

1969年には、FAO/IAEA/WHOの照射食品の健全性に関する合同専門家会議(JECFI)が組織され、1970年には、各国機関が健全性評価に関わる研究を分担して実施するために、FAO、WHO、IAEAおよびOECDの協力により、国際食品照射プロジェクト (IFIP)を開始された。IFIPは、各国における動物試験の経費の節滅に役立たせるために、10 kGy以下の線量を照射した食品を対象とした、世界中で行われている種々の動物試験に対して、統一性を持たせるとともに、動物試験に関する情報交換の場を設けた。また、IFIPは、照射食品の安全性に関する独自の委託試験も行った。IFIPにはわが国を含む24ケ国が参加し、これらの国とIAEAが、合計400万ドルの資金を拠出した。IFIPの支援のもとに行われた研究においては、照射食品が発ガン物質や毒性物質を含むという事実は、何も観察されなかった。このプロジェクトは、10 kGy以下の線量を照射した食品の健全性を明らかにして、1981年に終了した。IFIPと並行して、前述の米国における検討に加え、わが国等では、独自に、照射食品の健全性を検討するためのプロジェクトが実施され、多くの試験研究が行われた。

1970年代には、IFIPの活動と並行してFAO/IAEA/WHO合同専門家委員会では、食品照射の安全性について物理、化学、微生物、毒性、栄養等あらゆる方面から検討された。これらは、毒性学的安全性(照射により、急性毒性、慢性毒性、発ガン性、遺伝毒性、細胞毒性、催奇形性、変異原性などが増さないか?) 、微生物学的安全性(突然変異などにより汚染微生物の毒性が増さないか?)、栄養学的適格性(栄養価の低下、アレルゲンが生じないか?)の3項目を総合した「健全性」という概念で包括されている。これらの検討の結果、食品および食品成分の放射線化学の研究成果が蓄積されるに従い、放射線分解生成物の量は、60kGyまでの照射では1mg/kg以下であり、生成した化合物の大部分は、加熱など他の物理的加工を受けた食品中でも存在すると結論された。さらに食品の成分と照射条件が明らかであれば、照射生成物の種類や生成量の推定が可能となり、このような放射線化学的な知見が、時間と費用のかかる動物試験を減らす補助手段として、毒性評価に利用できることが示された。これらの知見をもとに、照射食品の有害性が報告された研究論文を注意深く再検討した結果、有害性は全て否定された。以上の結果を受けて、1976年には「食品の照射処理は加熱処理と同様な物理的処理である」という勧告が出された9)

さらに1980年に実施されたJECFIの第3回会議では、IFIPの試験結果も考慮に入れ、放射線照射食品の毒性学的安全性、微生物学的安全性、栄養学的適格性の3項目を包括した概念、すなわち健全性についての結論がまとめられ、「60Co、137Csからのガンマ線、5MeV以下のエックス線、10MeV以下の電子線を用いる限り、10kGy以下の照射ではいかなる食品も毒性を示すことはなく、従って10kGy以下の放射線照射を受けた食品については毒性試験の必要がない。さらに、10kGy以下の放射線照射を受けた食品については、特別の栄養学的な問題や微生物学的な問題もない」という安全宣言が採択された。この勧告を受けて、1983年にFAO/WHO食品規格委員会(FAOとWHOが合同で運営する組織で、食品の加工・処理法、表示等に関する国際規範を作成)は、食品に10kGy以下の線量の放射線を適切に照射して、国際間で流通させるための基本的な規格として、「照射食品に関する国際一般規格(案)」と「食品照射実施に関する国際規範(案)」を作成し、WHOおよびFAOの加盟各国に送付した。これらが照射食品と食品照射実施の国際的な基本ルールとなった。一方、国際微生物学連合の国際食品微生物学・衛生学委員会は、1982年にコペンハーゲンで会議を開催し、食品照射の微生物学的安全性を再検討した結果、FAO/IAEA/WHO合同専門家委員会の1980年の結論を是認した。また1986年には、EC委員会においてこの結論が是認され、放射線照射食品の安全性を確認するための動物試験は、これ以上行う必要性がないとの見解が確認された。

44-2-3このような照射食品の健全性に対する評価にもかかわらず、各国に照射食品に対する不安や反対運動があるので、WHOは1994年に、照射食品の健全性について再評価し、問題のないことを再確認した。この見解については、WHOから”Safety and Nutritional Adequacy of Irradiated Food”という本の形で公表されており、わが国でも翻訳本がコープ出版から出版されている3)。さらに、1997年9月にはWHOの専門家委員会が、10kGy以上照射した食品の健全性についても問題がないという見解を出しており、この結果に基づいて、2003年に国際食品規格(Codex)の関連文書の一部改訂が行われた(表2)。現在食品の放射線殺菌が許可されている各国においても、概ねこの規格に準拠したガイドラインが、定められている。

 

 

44-2-4

 

この他に英国農務省の委託により、1986年に専門家がまとめた照射・新規食品に関する諮問委員会(Advisory committee on irradiated and novel foods)報告、1988年のカナダ厚生省の消費者向けの食品照射に関する公式見解、1989年のWHOの国際消費者機構(IOCU)への公式回答の5点が、食品照射の健全性についての公的機関による評価として挙げられる7)。さらに中国においても、適切に管理され、注意深く管理されたヒトに対する90日間の試食試験が行われている。これは健康なボランティアに対して、35種類の異なった実用線量で照射された食品が、献立や栄養に配慮しながら与えられ、対照群には、非照射の同じ食品が与えられた。試験中に行われた臨床試験や発ガン試験の結果、照射と非照射群の間には、何ら差異が認められなかった。本報告は、WHO により信頼できる照射食品の安全性データとして認められている8)

このように、世界各国で数十年にわたり試みられた健全性に関する研究は、1997年の時点で既に、1,200件以上を数えている。その結果、ほとんどの場合において、照射食品の安全性に関する間題はないという結果が得られたが、照射食品の安全性に疑問を呈する試験報告もいくつか存在し、代表的な例は、ジャガイモの照射によるラジオトキシン生成と、照射コムギの摂取による染色体のポリプロイディ(倍数化)である。これらについては、日本を含め各国の研究機関等で多くの追試が実施され、いずれも問題とされた現象は見出されなかったとして否定されている。

44-2-5

 

ラジオトキシンは、1972年にソビエトの研究者M. Kuzinらが、照射ジャガイモのアルコール抽出物の中にマウスの染色体異常や優性致死を引起こす毒素として報告された。これに対して日本を始め、各国での追試が実施された。日本での追試においては、150 Gyを照射したジャガイモ抽出物中には、問題となるような物質は見出せず、変異原性試験やチャイニーズハムスターの培養細胞を用いた染色体異常誘発試験、マウスによる小核試験を実施したが陰性であった。またマウスによる優性致死誘発も、全く起こらなかった。さらにKuzinらは、変異原性は照射直後2〜3時間以内に抽出操作を行なった場合のみに現れ、照射後40日間保存したジャガイモでは検出されず、照射直後においても、ゆでた場合は変異原性は検出されなかったとしていることからJECFIにおいても照射ジャガイモの安全性と直接関連はないと評価されている。ポリプロイディについては、1975年にインドの国立栄養研究所(NIN)のグループが提起した問題で、照射コムギ、ひいては照射食品全体の健全性に関わる問題として世界の注目を浴びた。同グループの実験は、ラット及び栄養失調児5人に照射直後、照射後貯蔵及び非照射の3群の小麦を、それぞれ4週問与えた結果、照射後12週間貯蔵した小麦を与えた子供に比べて、照射直後を与えた子供の方が、血液細胞の染色体異常(ポリプロイディ)が多く検出された、というものである。これに関しては、国際機関やインドの研究グループ、英国、米国等の追試や、ボランティアによる試食試験でも染色体異常は観察されず、これも現在では、完全に否定されている。わが国でも次節で述べる日本アイソトープ協会「食品照射研究委員会」においてラットを用いた染色体異常試験が行われたが、やはり染色体異常は観察されなかった(図2)。なお、仮にこの報告通り、血液中の染色体に異常が現れたとしても血液そのものは新陳代謝により絶えず入れ替わっており、実生活上、何ら問題はないといえる。さらにNINの実験に対しては、実験対象に栄養失調児という、いわば健康を害した人を選んだこと、即ち実験の不適切さも指摘されている。

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3-3.  わが国における検討4)

わが国においても、1967年から1981年にかけて国のプロジェクト(食品照射特定総合研究)により、ジャガイモ(芽止め)、タマネギ(芽止め)、米(殺虫)、小麦(殺虫)、ウインナーソーセージ(殺菌)、水産練り製品(殺菌)、ミカン(表面殺菌)を対象とした健全性の検討が行われ、すべての品目について問題のないことが明らかにされている(表3)。この結果に基づいて、1972年にじゃがいものガンマ線照射が許可されて、1974年1月から北海道の士幌町農業協同組合でじゃがいもの照射が実施されている(図3)。

さらに、照射コムギの摂取による小児の染色体異常をはじめ、国際的に疑問を投げかけられている安全性に係る問題について再検討するとともに、新しい評価手法で、照射食品の健全性を評価することが必要であるとの認識から、1986年から1991年までの6年間、日本アイソトープ協会は「食品照射研究委員会」を設けて、誘導放射能、食品成分の変化(香辛料の香味変化、照射ジャガイモのビタミンC含量)、変異原性、微生物学的安全性(照射後の微生物のボツリヌス毒素やアフラトキシンの産生能の変化)について、最新の手法を用いて再試験を行った。その結果、すべての照射食品の健全性に、問題のないことが確認されている。詳しくは、日本原子力研究開発機構の「食品照射データベース」(http://foodi rra.jaea.go.jp/)をご覧いただきたい。

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4. 食品照射により生じる2-アルキルシクロブタノン類の毒性について1),6)

これまでの研究で、照射食品中に生じる分解生成物は、加熱など他の処理法と比べてはるかに量が少なく、放射線特有の分解生成物(Unique Radiolytic Products:URP)の毒性は無視できるとされてきた。しかし、近年、放射線照射による脂肪の分解生成物として、アルキルシクロブタノン類が検出され、放射線照射の有力な検知方法として利用できるようになると、改めてこの化合物の毒性についての懸念が想起され、照射食品の安全性について、論議を呼んでいる。図4に示すように、2-アルキルシクロブタノン(2-ACB)類は、食品の放射線照射によって、脂肪(トリグリセリド)の放射線分解生成物として、生成する。

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この物質は、放射線照射以外のプロセスでは生成しないとされ、放射線照射食品を検出する指標物質として研究が進められてきた。現在、国際食品規格(Codex)を始め、我が国でも脂質を多く含む食品(畜肉、チーズ、サーモン等)を対象として、パルミチン酸由来の2-ドデシルシクロブタノン(2-dDCB)及びステアリン酸由来の2-テトラデシルシクロブタノン(2-tDCB)を検出すれば、放射線照射の履歴を検知したと判定する分析法として利用されている。この化合物の生成量は、1kGy あたり1/10ppm レベルのオーダーであるが、放射線照射に特異的であることから、1990 年代後半になって遺伝毒性試験が実施された。その結果、Ames testの結果は陰性であり、染色体DNAの損傷に陽性を示したのは、代表的な2-ACBsの一つである2-ドデシルシクロブタノン(2-dDCB)を用いた小核試験、コメットアッセイのみであった。ただし、陽性を示した2-ACBsの濃度は、試験に適さない細胞毒性を示すほどの高濃度であり、2-dDCBと染色体DNAの損傷との直接的な因果関係を証明するのには不十分と考えられた。さらに興味深いことに、2-dDCBの前駆体であるパルミチン酸を同じ濃度域で用いた場合においても、小核試験は陽性を示すことも明らかになった。ラットへの高濃度投与(体重当り14.9 mg/kg)におけるDNA に対する損傷作用(酸化的DNA傷害)や、ラットに毎日1mg(体重当り3.85mg/kg)を投与すると、発がん剤アゾキシメタンによる、結腸がん発生のプロモーター活性があると報告された5)。さらに生体内での2-ACBsの代謝に関しては、ラットを用いた比較的短期(5日間)の試験が行われ、トウモロコシ油とともに摂取された2-dDCBの約3~11%が、便に回収されることが報告された。これらの結果からWHO 等の国際機関や照射食品を認可しているEU、米国などの政府機関は、2-ACBsは細胞に対して、何らかの遺伝毒性を持つ可能性は否定できないが、食品中におけるアルキルシクロブタノン類の生成量が、ごく僅かであること、消化の過程で、他の成分との相互作用の存在が予測され、照射食品の摂取による発がん等のリスクが増大する危険性はないとの見解を示している。詳しくは日本食品照射研究協議会のホームページ(http://jrafi.ac.affrc.go.jp)を参照されたい。

また最近になって、非照射のナツメグ、カシューナッツから2-ACBsが検出されたとする報告がなされたが、その後これを支持する追試がないため、2-ACBsが天然の食品に存在するという事実が確立するには、さらなるデータの蓄積が待たれるところであり、現在筆者らは内閣府食品安全委員会の委託により、この化合物の遺伝毒性や発がんプロモーター活性の有無等について評価研究を行っている。

 

5. 照射飼料摂取に伴うLeukocephalomyelpathy(LEM)(白質脳症) 症例6)

25 kGy以上の放射線照射により滅菌された飼料により、特定病原体未感染(SPF)の条件下で飼育されたネコに神経障害、運動失調、すなわちLEMの症状が見られたとの複数の報告がなされ、食品照射の安全性に対する新たな疑問を投げかけている。これらの症例は、1998年~2001年にかけてまずアイルランドにおいて報告され、最近では、オーストラリアでも50 kGy以上照射されたペット用飼料で飼育されたネコに、同様な症例が報告されている。実験動物を用いた試験研究の結果、これらの症例には、再現性があることは確認されている。しかし照射飼料による飼育において、LEM発症が報告されているのは現状ではネコのみであり、他の動物(イヌ、マウス、ラット、ヒト)には見られていない。例えば、実験動物を用いた試験で、ネコと同じ飼育条件のイヌには現れなかったという報告もある。この原因としては、いくつかの仮説が提出されている。例えば、放射線照射により飼料中のある種のビタミンが分解した場合、ネコが他の動物よりも悪影響を受けるという説、照射により、飼料に生じる過酸化脂質が原因であるとする説などである。しかし照射飼料のリスク評価に資する明確な機構解明には至っていない。いずれにせよ、ヒトの発症例は報告されていないため、WHOやEUは、これらの報告だけで照射食品のヒトに対する安全性に関する評価はできないとの立場を取っている。

6. 終わりに

2008年度に行われた食品照射の世界的な経済規模に関する調査の結果、食品照射の取扱量が多かったのは、米国とアジア地域の国々であり、特に、わが国との食糧貿易量の多い米国、中国、東アジア地域で順調に食品照射が伸びてきている(表4)。今後わが国の主要な貿易相手であるアジア諸国で、食品照射の実用化が順調に進めば、将来的には、新たな食品照射の許可品目拡大の要求が高まるだけでなく、無許可の照射食品が、わが国に入ってくる可能性もある。わが国においては、1972年にジャガイモの芽止めが世界に先駆けて許可されたが、それ以後、香辛料の放射線殺菌の許可申請が成されたのみである。

このような状況を放置し、さらなる安全性検討を怠れば、世界の情勢に遅れをとる恐れがある。わが国

において、食品照射に反対する消費者グループ(例えば、食品照射ネットワーク:http://www.sih.jp/

menu_s.htm)はアルキルシクロブタノン類や、照射済みネコ用ペットフードの安全性に対して、極めて大きな懸念を表明しており、しばしば政治家を通じて厚生労働省や食品安全委員会、また照射ジャガイモの生産者である北海道士幌農業協同組合に対して質問書や要望書などを提出している。このような根強い反対運動においては、先に述べた過去の誤った研究報告を根拠に、食品照射の危険性を指摘する、という主張がよく見受けられる。もし万一、マスコミ報道などを通じて誤った情報が消費者に伝わると、食品照射に対する不安が、必要以上に強まる恐れがある。これに対処するために、長い研究の歴史を持つ照射食品の安全性についての理解を深めると共に、専門的な食品照射の健全性研究の方法論や、結果の解釈をわかりやすく一般消費者に伝えることも、重要な課題であり、本報文が少しでも役立てば幸いである。

厚生労働省の委託により行われた(株)三菱総合研究所の調査によれば、照射食品中のアルキルシクロブタノン類の生成量、及びその推定暴露量、アルキルシクロブタノン類の毒性(特に、遺伝毒性、発がんプロモーション作用)について、データが不足しているとされている7)。現在筆者等が進めているアルキルシクロブタノン類の毒性試験などを通じて、照射食品のリスクプロファイル作成を急ぐと共に、食品照射の安全性について正しい知識を一般の人々に提供できるように、今後とも努力したい。

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参考文献:

  1. 古田雅一、食品の放射線照射の現状と展望、生活衛生55(1)23-33 (2011)

  2. Kume T. Furuta M. Todoriki S. Uenoyama N. Kobayashi Y. Quantity and economic scale of food irradiation in the world. RADIOISOTOPES 2009; 58, No.1: 25-35.
  3. 世界保健機関(WHO)編著.食品照射の安全性と栄養特性.東京: コープ出版; 1996.
  4. 古田雅一.照射食品の健全性.FFI Journal 2004; 209, No.12: 1069-1078.
  5. Raul, F. et al., Food-Borne Radiolytic Compounds (2-Alkylcyclobutanones) May Promote Experimental Colon Carcinogenesis, Nutrition and Cancer, 44(2), 188-191 (2002).
  6. 「最近の食品照射の国際動向 -欧州食品安全機関(EFSA)の見解を中心に-」古田雅一、食品照射、46(1) 27-31 (2011)
  7. 「食品への放射線照射についての科学的知見のとりまとめ業務報告書」平成20年3月㈱三総合研究所 (http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/housya/houkokusho.html)

 

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