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【特集】 食品分析における最近の話題(PartⅩⅩ)

 

残留農薬一斉分析におけるAnalyte Protectants の利用について 

JAあいち経済連 営農支援センター 永井 雄太郎

 

1.はじめに

GC測定の際には、マトリックスの影響による異常回収率、特に回収率が高くでる増感効果が問題になることが多い。増感効果のメカニズムは、次のように説明されている。「有機溶媒で調製した標準溶液では、注入口やカラムに存在する活性点が分析対象成分の分解や吸着を引き起こすのに対し、試料液では、試料由来のマトリックス成分が活性点を塞ぐことで分解や吸着が抑制される。その結果、試料液では、標準溶液に比べより多くの分析対象成分が検出器に到達することになり、レスポンスが高くなる」。増感効果を回避するために、マトリックス検量線やサロゲートによる補正等様々な方法が試みられているが、その一つに疑似マトリックスの利用がある。疑似マトリックスは、活性点を塞ぐことができる極性化合物で、試料液と標準溶液両者に添加することで、同程度に分解や吸着を抑制し、異常回収率の発生を防ぐことができると考えられている。

疑似マトリックスとしては、国内においてはポリエチレングリコール(以下PEG)が広く使用されている。他にも、酵母エキス1)やPEGに合わせて野菜果実ジュースの抽出液を使うといった方法2)も報告されている。

Analyte Protectants(以下、APs)も疑似マトリックスの一つであり、作物残留農薬の一斉分析法であるQuEChERS法と合わせて、検討が進められてきた3)

 

2.QuEChERS法におけるAPsの必要性とその探索

QuEChERS法は、精製をミニカラムでは無く分散固相抽出(dispersive solid phase extraction、以下d-SPE) で行うため、厚生労働省の通知一斉分析法と比べても試料の精製度が低くなる4)。QuEChERS法の開発者たちは、d-SPEで精製した試料をGC-MSで測定するため、多くの化合物の中から、APsとして利用できるものを選抜してきた5)-7) 。その中で、APsが沸点の近い農薬を保護することを見出し、一斉分析対象農薬の広い沸点範囲を効果的にカバーするため、3つの化合物の混合物を採用している6)-9)。入手できた最も新しい資料8)では、エチルグリセロール、グルコノ-δ-ラクトンおよびソルビトールの混合物が用いられており、それぞれ低沸点側、中沸点および高沸点側を保護している。これらの化合物は、GC上でテーリングしたブロードなピークを示すことから、それぞれが幅広い温度範囲をカバーすることができる。中でもグルコノ-δ-ラクトンは、GC上で複数の分解物に分解され、その分解物がそれぞれブロードなピークとなるため、ひとつの化合物でより広い沸点範囲をカバーすることができる5)とされている。APsの構造式を図1に示した。GCシステムの活性点を水素結合によって塞ぐことができる複数の水酸基をもった化合物がAPsとして選ばれている。さらに、これら3化合物に加え、アルカリ性で分解しやすいとされる農薬(クロロタロニル、キャプタン等)のバイアル中での分解を抑制するため、シキミ酸が加えられている。APsとして採用された化合物は、活性点を塞ぐという本来の効果に加え、「分析対象化合物と溶液中やGC上で反応しないこと」、「GCカラムや検出器の性能を劣化させないこと」、「検出の妨害にならないこと」、「GC注入口等に蓄積せず、容易に入手できること」といった観点からも評価されている5)

 

3.PEGは何故APsに選ばれなかったのか?

PEGも、APs候補として検討されており、高い効果が認められている5),6)。しかし、「農薬が出現する時間の広い範囲に渡って複数のピークを示すが、ピークがシャープすぎるためカバー範囲が狭い」、「長期に渡る注入により、カラム性能を損ねる」、「保持時間の長い成分の感度を上げる効果がソルビトール等と比較して弱い」等を理由に、APsとしては採用されていない6) 。また、QuEChERS法で調製した試料に用いた場合、APsが効果的に作用するのに対して、PEGは、合成ピレスロイド系農薬等のレスポンスを下げるといったマイナスの影響を示すことが報告されており、マトリックス濃度が高い試料での有効性が十分でない可能性があること10)が報告されている。

 

4.APsのメリット

APsは活性点を塞ぐことで、ブロードなピークの形状を改善や、感度を上昇させる等の効果もある。何よりAPsの使用で得られる最も大きなメリットは、汚染の進んだGCシステムでも測定ができる5),6)という点である。我々は、アイスティサイエンスの大量注入口装置を使用しているが、QuEChERS法で調製した試料を注入すると、胃袋型のライナーに不揮発性の夾雑成分が蓄積する(図2)。APsを使用しない場合、汚染の進行につれて、まず試料液で感度が低下する農薬がでるようになる。さらに図2の状態までライナーの汚染が進むと、標準溶液でもメタミドホス、カルバリル、シペルメトリン等、ピークが全く検出できなくなる農薬がでてくる(図3)。しかし、その汚染された状態のままでも、APsを添加することでピークが検出できるようになり、トマト試料では、定量的な測定も可能なレベルまで回復した11)。他にも、超臨界抽出したきゅうり試料液(精製無し、マトリックス濃度2g/ml)40μlを16~20回注入した後、NAGINATAクライテリアサンプル(林 純薬工業製)を測定するとイソキサチオンやフェニトロチオンのピークが検出できなくなるのに対し、APとしてグロノラクトン(検討の早い段階5),6)では最も効果があると評価されたもの)を添加しておくと両化合物とも安定して検出できるという報告12)もある。ただし、表1に示したように、APsを使用しても汚染したライナーで感度が低下する農薬もあり、汚染が進んだ場合、これらの検出限界が問題になってくる。

 

 

また、バイアル中での農薬成分の安定性を向上させるというシキミ酸の効果が顕著に示された例として、ジコホルの事例13)がある。ジコホルは、不活性化処理していないバイアル中にアセトニトリル溶液として入れておくと、30分程度の半減期で4,4’-ジクロロベンゾフェノンに分解される。しかし、APsを加えることで分解が抑制され、親化合物が測定できるようになる。図4に示したように、クロロタロニル等にも効果がある。これはおそらくバイアル中での分解抑制に加え、GC上での分解や吸着が抑制されたためと考えている。


5.増感効果の抑制について

APsを用いた多成分分析の添加回収試験では、良好な回収率が得られた11)。ただし、図5に示したようにGCシステムのコンディションや作物と農薬の組み合わせによっても効果が変わってくる。そのため、正確な分析値を得るためには、追加精製、装置の保守、マトリックス検量線等、他の方法と組み合わせる必要が生じる場合もある。スクリーニング的な分析が目的であれば、増感効果があることを理解して測定を行い、その上で問題となりそうな農薬が検出された際に定量的な手法(マトリックス検量線、標準添加法等)で確認するというやり方が、効率的かつ合理的だと考えられる。

 

6.APs使用時の注意点

①キャリーオーバー

注入口やカラムの汚染が進行すると、テブフェンピラド、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、ピリミジフェン、ジフェノコナゾール、トルフェンピラド等、高沸点側の農薬のキャリーオーバーが認められるようになる。これらは、キャリーオーバーとして、前に注入した標準溶液のピーク面積の10%を超えて検出される場合もある。標準溶液と試料との間にクリーニングのための注入をはさんだり、キャリーオーバーしやすい農薬については、LC測定に移行したりする等の対策が必要になる。

②カラム出口側および入口側の汚染

以前主として使用していたGC-MS/MS(1200、Varian製)では、100から200検体程度測定を行うと、カラムの出口側が汚染され、その影響で保持時間の長い農薬のピーク形状が悪化することがあった。この部分の汚染を減少させるため、トランスファーラインの温度は310℃としていたが、1200は、トランスファーラインカラムの先端1㎝程度がイオン源(設定温度260℃)の中に入る構造になっており、そこがコールドスポットとなって、高沸点夾雑成分が溜まってしまったのではないかと考えている。現在使用しているGC-MS/MS(Scion、ブルカー・ダルトニクス製)では、トランスファーラインカラムはトランスファーライン内に収まるようになっており、温度がカラムの先端までかかるためか、カラム出口側の汚染の頻度は著しく低下している。しかし、数百検体試料を測定すると、注入口側の汚染で保持時間の長い農薬のピーク形状が悪化することがある。

③シリンジの洗浄

高極性のAPsは、有機溶媒に溶けにくいため、有機溶媒のみの洗浄では、APsが除去しきれず、プランジャーが固着してしまうことがある。それを防ぐためオートサンプラーのシリンジの洗浄液の一つに、含水溶媒を入れておく必要がある。我々は現在、アセトニトリル/水(7:3)混液を用いている。

④測定へのマイナスの影響

APsの添加により、ピーク形状の悪化、ノイズレベルの増大、感度低下等の悪影響が認められる農薬もある。APs添加で悪影響を受ける農薬のほとんどのものは、LC/MS/MSで測定が可能であることから、そちらでの測定に移行している。酸性であるAPsを添加することで、塩基性農薬の測定に悪影響がでることも報告されている。実際に、弱塩基性のアセタミプリドおよびイマザリルは、ピークがでなかったり感度が著しく低下したりした。

⑤高沸点側の保護効果化が不十分

高沸点側の保護効果が高く、GCを汚染しないAPを見つけることが難しいため、APs混合物を用いても、高沸点側の保護効果が十分でないこと6)が報告されている。実際の測定でも、汚染が進んでくると、作物にもよるが保持時間の長い農薬で顕著な増感効果が認められる(図5)。

キャリーオーバーやカラム出口側の汚染が、APsそのものの影響なのか、精製不十分な試料に由来するものかは、明らかではない。

 

7.APs使用時の注意点

APsのバイアルへの添加濃度およびGCへの注入方法を表2に示す。我々は、APs導入検討時に入手可能であった資料7)の添加濃度①を採用した。その際、他の文献から注入量を1μlと推定し、当初は2μl注入する予定でいたため、添加濃度は半分(添加濃度③)としている。しかし、最終的には感度の関係で注入量を3μlに変更している。添加濃度②は、より新しい資料8)に示されたものである。APs添加用混合溶液の調製方法は、その資料8)を参照いただきたい。APsは何れも高極性化合物のため、溶媒として水/アセトニトリル混液が用いられている。参考までに我々のAPs混合液の調製方法は以下の通りである。「エチルグリセロール300mg,グルコノ-δ-ラクトン100mg,ソルビトール15mg,シキミ酸50mgを10ml容目盛り付き試験管に秤取し、MeCN2mlを加えた後、蒸留水で全量を4mlとする」。これを試料液、標準溶液両者にそれぞれの体積の2%量添加している(0.5mlに対して10μl)。供試重量が通常の半分の5gの場合には、最終試料液が2倍希釈相当になるため、注入量を倍の6μlとしている。その際には、APsのGCへの注入量が同じになる様に、APs混合液の添加液量を半分とする。

 

 

一律同じ量を添加しているが、APsの適当な添加量は、GCシステムごとに異なる8)とされており、試料やシステムの汚染状態の影響も受けるため、どの配合が適しているのか、他によりよい配合があるのかは、それぞれの使用場面で最適化の余地があると思われる。

 

8.おわりに

APsには、デメリットもあり、現状マトリックス効果を完全に補正できるものではないが、他の手法に比べて、簡便性、経済性といった多くのメリットがある。また、GCシステムが汚染した状態でも測定ができることから、ERS法でd-SPE精製により調製した精製不十分な試料を、GC-MS(/MS)で安定して測定するためには必要なものであると考えている。近年、マトリックス効果の原因物質の探索が行われ、モノアシルグリセロールが高い増感効果を示すこと14)が明らかにされており、それを除去する試み15)も始まっている。これら新たなアプローチとAPs等の疑似マトリックスを組み合わせることで、GCによる測定が簡易でより信頼性の高いものになることを期待している。

APsについては、以前食品衛生学会誌に入門講座としてまとめたもの16)があるため、興味をもっていただいた方には、そちらもご覧いただきたい。また、参考文献としてあげた資料3), 5)-8)に目を通していたければ、QuEChERS法の開発者らの意図や思いが伝わるのではないかと考えている。

 

参考文献

1)  小川貴史,岡本尚子,谷口勝彦,山下健司,西田政司,樋口初良:食衛誌,38,204-210(1997)

2)  福井直樹,高取 聡,山口聡子,北川陽子,吉光真人,小阪田正和,梶村計志,尾花裕孝:食衛誌,56
   178-184  (2015)

3)  M. Anastassiades, S. J. Lehotay, D. Štajnbaher, F. J. Shenck: J. AOAC Int. 86, 412-431 (2003)

4)  K. Sugitate, K. Yamashita, S. Nakamura: J. Pestic. Sci. 40, 200–207 (2015)

5)  M. Anastassiades, K. Maštovská, S. J. Lehotay: J. Chromatogr. A., 1015, 163-184 (2003)

6)  K. Maštovská,S.J.Lehotay,M.Anastassiades:Anal.Chem., 77, 8129-8137(2005)

7)  http://cvuas.xn--untersuchungsmter-bw-nzb.de/pdf/poster_scherbaum_eprw2006_ap.pdf

8)  http://www.eurl-pesticides.eu/library/docs/srm/EURL_Observation-APs.pdf

9)  P. Payá, M. Anastassiades, D. Mack, I. Sigalova, B. Tasdelen, J. Oliva, A. Barba: Anal Bioanal Chem, 389, 1697-1714
   (2007)

10)  杉立久仁代,中村貞夫:第109回日本食品衛生学会学術講演会講演要旨集, p42 (2016)

11)  永井雄太郎,窪田尚正,前田洋子,松井啓江,村田知美: 第31回農薬残留分析研究会講演要旨集, p223-234
   (2008)

12)  落合伸夫,石塚雄貴,笹本喜久男,神田広興,小野由紀子,山上仰: 第29回農薬残留分析研究会講演要旨集,
   p112-118 (2006)

13)  永井雄太郎,窪田尚正,前田洋子,松井啓江,村田知美: 第32回農薬残留分析研究会講演要旨集, p138-148
   (2009)

14)  K. Sugitate, S. Nakamura, N. Orikata, K. Mizukoshi, M. Nakamura, A. Toriba, K. Hayakawa: J. Pestic. Sci. 37,
   156-163 (2012)

15)  K. Sugitate, M. Saka: J. Pestic. Sci. 40, 87–91 (2015)

16)  永井雄太郎: 食衛誌 51, J-193-J-200 (2010)

 

執筆者のプロファイル

永井雄太郎(ながい ゆうたろう)
JA あいち経済連 営農支援センター
(専門分野)残留農薬分析

 

【特集】 食品分析における最近の話題(PartⅩⅩ)

 

EUにおける2018年版“残留農薬分析のための分析的品質管理

および分析法バリデーション手順のガイダンス”の紹介

残留農薬分析国際交流会 廣田 政隆

 

1.はじめに

このガイドラインSANTE/11813/2017「Guidance document on Method Validation & Quality Control Procedures for Pesticide Residues Analysis in Food & Feed(食品と飼料中の残留農薬分析のための方法の妥当性確認(以下、バリデーションに統一)と品質管理手順のガイダンス文書)」1)は、残留農薬分析を行うための必要な基本的な事柄が試料採取から報告までに渡って記述されています。ガイドラインは1999年から数年ごとに規制の変化、残留分析技術の進歩に伴って改訂されています。これらの過去のガイドラインについては、ホームページ2)で追跡することができます。

残留農薬分析に携わっておられる初心者から経験者まで一度は読んでおかれることを推奨します。初心者は残留農薬分析に係る必要な事項の確認、経験者はもう一度残留農薬分析に必要な事項を見直すには適切なテキストになるのではないかと思います。

原本は全46ページ、日本語に訳しても50ページを超える文書になります。この文書で記述しています日本語注釈は不適切な所もあるかと思いますがご容赦ください。

 

2.目次の紹介

それでは、内容として何が記述されているかを見るには目次が最もわかりやすいので以下に目次の項目を挙げてみました。

 A. Introduction and legal background
   (緒言および法的背景)

  B. Sampling, transport, traceability and storage of laboratory samples
   (サンプリング、輸送、試験室サンプルのトレーサビリティおよび保管)

 C. Sample analysis
   (試料分析)

 D. Identification of analytes and confirmation of results
   (分析物の同定および結果の確認)

 E. Reporting results
   (結果の報告)

 F. Pesticide standards, stock solutions and calibration standard solutions
   (農薬標準品、原液およびキャリブレーション標準溶液)

 G. Analytical method validation and performance criteria
   (分析法バリデーションおよび性能基準)

 H. Additional recommendations
   (追加推奨)

 Annex A Commodity groups and representative commodities
   (食品グループおよび代表的な食品)

 Appendix A. Method validation procedure: outline and example approaches
   (分析法バリデーション手順:アプローチの概要および凡例)

 Appendix B. Examples of conversion factors.
   (分析値換算因子の例)

 Appendix C. Examples for the estimation of measurement uncertainty of results
   (結果の測定の不確かさの推定例)

 Appendix D. Glossary
   (用語解説)

 

それでは、各条項の記述内容を紹介していきます。

 

3.Introduction and legal background
  (諸言および法的背景)

このガイドラインは、EUにおける食品または飼料中の残留農薬分析の公的な管理に関する試験室を対象としたものです。そのため「諸言および法的背景」として、以下のような文章が記述されています。「この文書は、EUに送られたモニタリングデータを含む農薬残留の公式規制の枠組みの中で報告されたデータの妥当性を補い、そして、最大残留基準値(MRL)の遵守、施行措置、または消費者暴露の評価を確認するために用いられるところの分析法バリデーションと分析品質管理(AQC)要求事項について記述している。」

そしてその目的としては以下のとおりである。

 (1)EU全域のハーモナイズされた効率の良い品質保証および品質管理システムを提供すること
 (2)分析結果の品質および相互比較可能性を保証すること
 (3)許容可能な精確さを達成していることを保証すること
 (4)偽陽性または偽陰性はないことを保証すること
 (5)ISO/IEC17025(認定基準)への準拠および具体的な実施を裏付けること

と記述されています。

さらに「ISO/IEC17025に記載された要求事項を補足するもので、ISO/IEC17025に従っている公的な残留農薬試験施設の監査および認定においてこれを考慮すること」との記述もありますが、内容についてはISO/IEC17025だけに限らない残留農薬分析すべてに関わる妥当性確認や品質管理のための基本的な事柄が記述されています。

さらに、EU域内における法的背景が詳細に記述されています。いくつか拾ってみますと、

 (1)ISO/IEC17025の認定を受けていること
 (2)EUで認められた方法に従うこと
 (3)EUの方法が無い場合は、国際的な方法に従うこと
 (4)EU域内で公的な残留農薬分析に関して相互受け入れのための技術的ガイドライン

と記述されています。

 

4.Sampling, transport, traceability and storage of laboratory samples
  (サンプリング、輸送、試験室サンプルのトレーサビリティおよび保管)

この条項では、以下のサブ条項に分けて記述されています。

 Sampling(サンプリング)
 Transport(輸送)
 Traceability(トレーサビリティ)
 Storage(保管)

サンプリングとして、EUの指令(Directive 2002/63/EC)および規則(Appendix I of Regulation (EC) No. 152/2009 and amendments)に従うこと。

輸送としては、燻蒸剤の残留分析の場合の包装、傷みやすい試料(熟したラズベリーなど)、低温で傷みやすい試料(バナナなど)など輸送中の損傷を避けるように記述されています。受入に際しても、洞察力のある要員による確認が必要であること。

トレーサビリティとしては、受け入れた試料について、トレーサビリティがとれるように識別が必要である。その識別には試験室で定めた固有のコードを割り当てる必要がある。識別のマーカーとして、マジックペンが一般的に用いられるが、特に燻蒸剤、GC-ECDを用いるような分析の場合には、試料識別に有機溶媒のマジックペンの使用は避けたほうが良い。

保管についても、劣化を最小限にとどめる条件として生鮮品は冷蔵(5日以内)で保管すべき、乾燥物は室温保管で可能である。保管期間が2週間を超えることが起きるような場合はあらかじめ小分けした試料を冷凍保管すること。

など、残留農薬分析において、最初の工程の最も大事な試料の受入から保管まで必要な対応が記述されています。

 

5.Sample analysis
 (試料分析)

この条項では、試料調製に始まって、抽出(抽出効率)からデータ処理までの必要な以下の内容がサブ条項として詳細に記述されています。

 Sample preparation and processing(試料の調製および加工)

 Pooling of samples(試料のプール化)

 Extraction(抽出)

 Extraction conditions and efficiency(抽出条件および効率)

 Clean-up, concentration/reconstitution and storage of extracts(抽出液の精製、濃縮/再溶解および保存)

 Chromatographic separation and determination(クロマトグラフィー分離および測定)

 Calibration for quantification(定量のためのキャリブレーション)

 General requirements(一般的要求事項)

 Representative analytes for calibration(キャリブレーションのための代表的な分析物)

 Matrix-matched calibration(マトリックス適合したキャリブレーション)

 Standard addition(標準品添加)

 Effects of pesticide mixtures on calibration(農薬混合物のキャリブレーションへの影響)

 Calibration for pesticides that are mixtures of isomers(異性体混合物である農薬のキャリブレーション)

 Procedural Standard Calibration(操作上の標準品キャリブレーション)

 Calibration using derivative standards or degradation products>
 (誘導体標準品または分解物を用いたキャリブレーション)

 Use of various internal standards(種々な内標準物質の使用)

 Data processing(データ処理)

 On-going method performance verification during routine analysis(日常的な分析中の継続的な方法性能検証)

 Quantitative methods(定量法)

 Routine recovery check(日常的な回収率確認)

 Acceptance criteria for routine recoveries(日常的な回収率の許容基準)

 Screening methods(スクリーニング法)

 Proficiency testing(技能試験)

これらの各サブ条項に渡って紹介すると相当なページが必要になりますので、サブ条項を参考に、原本にアクセスしてください。

 試料の調製および加工の項でPooling of samplesという聞きなれない言葉がありますが、これは農薬残留が明らかに無いと予測される試料をまとめて分析する方法とその進め方を記述したものです。このような手法が日本で行われているのかは不明ですが、農薬が残留しているかどうかを自主スクリーニングする手法としては良いのかもしれません。詳細は原本でご確認ください。

 

6.Identification of analytes and confirmation of results
  (分析物の同定および結果の確認)

この条項でも、以下のようなサブ条項として判り易くまとめてあります。

 Identification(同定)

 Mass spectrometry coupled to chromatography(クロマトグラフィーに連結した質量分析計)

 Requirements for chromatography(クロマトグラフィーに関する要求事項)

 Requirements for mass spectrometry (MS) (質量分析(MS)に関する要求事項)

 Recommendations regarding identification using MS spectra(MSスペクトルを用いた同定に関する推奨)

 Requirements for identification using selected ions(選択イオンを用いた同定に関する要求事項)

 Confirmation of results(結果の確認)

クロマトグラフィーについての要求事項としては標準品の保持時間と試料の保持時間の許容範囲は±0.1分であること。さらに、クロマトグラムの形状も重要な要因である。

質量スペクトルについては、それぞれの技法による同定の要求事項が一覧表にされています。結果の確認としては、明確な確認ができない場合、当然と言えば当然ですが、抽出液から、または試料からの再分析による確認が推奨されています。

 

7.Reporting results
  (結果の報告)

この条項では、数値の取り扱いから評価に渡って記述されています。

 Expression of results(結果の表記)

 Calculation of results(結果の計算)

 Rounding of data(データの丸め方)

 Qualifying results with measurement uncertainty(測定の不確かさを持つ認定結果)

 Interpretation of results for enforcement purposes(施行目的のための結果の解釈)

EUにおける、結果の表記としては、ppmではなくて、mg/kgであること。定量限界以下の表記は、<RL mg/kgとして表記することなどが明記されています。数値の取り扱い、不確かさの評価方法など、施行規制する立場での指針について実際の数値を例に記載されています。

 

8.Pesticide standards, stock solutions and calibration standard solutions
  (農薬標準品、原液およびキャリブレーション標準溶液)

この条項では、残留農薬の分析値を得るための基準になる標準品の入手から保存、管理に渡って記述されています。

 Identity, purity, and storage of reference standards(標準品の同一性、純度および保管)

 Preparation and storage of stock standards(標準原液等の調製および保管)

 Preparation, use and storage of working standards(ワーキング標準溶液の調製、使用および保管)

 Testing and replacement of standards(標準品の検定および交換)

標準品については、同一性の確保、保管の識別記録が必要であり、それらは光および湿度を避けた低温、好ましくは冷凍庫内で、分解速度を最小限に抑える条件下で保管すること。各標準品に適切な保管条件である場合、それほど厳格ではない保管条件に基づくことが多い供給者の有効期限を最高10年まで置き換えることが可能である。標準原液の調製については、10mg以上の秤量では小数点5桁の天秤を用いること。調製した標準原液はラベル表示し有効期限を設定して、溶媒の揮散、水分の混入を防ぐ(重量で確認)ことができれば、トルエンまたはアセトンで5年間、アセトニトリル、メタノールまたは酢酸エチルで3年間は十分に安定である。標準原液の再調製における検定では古い溶液と新しい溶液の5回繰り返しの差が±10%を超えてはならないこと。10%超える場合は保管期間や保管条件などについて必要に応じて調整すること。などが記述されています。

 

9.Analytical method validation and performance criteria
  (分析法バリデーションおよび性能基準)

この条項では、定量における、分析法バリデーションについてバリデーションすべき項目とその基準が一覧表で示されています。

 Quantitative methods(定量法)

 Method performance acceptability criteria(分析法の性能許容基準)

 Screening methods(スクリーニング法)

 Method performance acceptability criteria(方法性能許容基準)

バリデーション時に当然確認すべき項目(直線性、真度等)の他にも、SANTE/11813/2017では「イオン比」、「保持時間」の項目も追加され、その判断基準が明確になっています。スクリーニング法は定性法であり、スクリーニング検出限界(SDL)での検出能力が必要で、そして推定SDLで添加して少なくとも20種類の試料の分析を含めることなどのバリデーションが必要とされています。

 

10.Additional recommendations
   (追加推奨)

この条項では、残留農薬分析で悩まされる汚染物や夾雑物について注意すべきことが記述されています。

 Contamination(汚染物)

 Interference(夾雑物)

汚染としては使用する保管容器、器具、内部標準物質の不用意な汚染、バックグラウンド(ハーブ中のビフェニル、土壌からの硫黄、アブラナ科からの二硫化炭素、さらには、ゴム製品からのジチオカーバメート、二硫化炭素、エチレンチオウレア、ジフェニルアミン)からの汚染を避けること。夾雑物としては、機器、容器、試薬、フィルター機材、バイアルシールなどからの夾雑物に注意すべきであるが使用した試験法や条件によって、その時の発生頻度や強度の変動が起こる。

 

11.Annex A Commodity groups and representative commodities
   (食品グループおよび代表的な食品)

Vegetable and fruits, cereals and food of animal origin(野菜、果物、穀類および動物起源食品)」、「Feed(飼料)」と分けて食品グループ、食品カテゴリー、代表的食品として一覧表にされています。

 

12.Appendix A. Method validation procedure: outline and example approaches
   (分析法バリデーション手順:アプローチの概要および凡例)

定量分析におけるバリデーションの進め方について、分析法の成熟において発生するアプローチの手法を次の4つのステップに分け

 (1)Initial full validation(一次フルバリデーション)
 (2)Extension of the scope of the method: new analytes(方法の適用範囲の拡張:新規分析物)
 (3)Extension of the scope of the method: new matrices(方法の適用範囲の拡張:新規マトリックス)
 (4)On-going validation / performance verification(継続中のバリデーション/性能検証)

と記述されています。バリデーションの進め方についてはこのAppendix Aが判りやすいようです。

 

13.Appendix B. Examples of conversion factors.
   (分析値換算因子の例)

フェンチオンとその代謝分解物についての分子量換算、トリアジメホンとトリアジメノールの算術合計値、チオジカルブとメソミルの合計をメソミル換算の3つの手法について実際に使用できるような計算方法の例を記述しています。

 

14.Appendix C. Examples for the estimation of measurement uncertainty of results
   (結果の測定の不確かさの推定例)

一つ目は、技能試験のZスコアからの不確かさの推計方法、二つ目は室内再現精度の相対標準偏差を用いて推計する方法が計算式、計算値とともに詳細に記述されています。

 

15.Appendix D. Glossary
   (用語解説)

本ガイダンスで使われている用語を詳細に記述しています。用語をしっかり把握することでもEUでの残留農薬分析についての知見が得られます。

 

16.終わりに

記述内容は単なる行政通知的な無機質な記述ではなく、残留農薬分析を行うにあたっての考え方そして注意すべき事柄が実務担当者の目線で細かく記述されています。最初にも述べましたが、従事される方々は残留農薬分析にどう取り組めばよいかの視点で再認識するためにも、一度は目を通しておかれることを推奨します。

なお、記述した内容については誤った解釈もしているかもしれません。原本を参照してください。

日本の行政の通知では、以下の2つの文書が参考になるでしょう。

食安発1224第1号(平成22年12月24日)
食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの一部改正について
(別添)食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドライン
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/gyomu/bu_ka/shokuhin/documents/validationh221224.pdf

衛食第一一七号(平成九年四月一日)
食品衛生検査施設等における検査等の業務の管理の実施について
(別添)精度管理の一般ガイドライン
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/gyomu/bu_ka/shokuhin/hourei/eishoku_no117.html

 

引用元

1) SANTE/11813/2017:
Guidance document on analytical quality control and method validation procedures for pesticide residues and analysis   in food and feed.
 https://ec.europa.eu/food/sites/food/files/plant/docs/pesticides_mrl_guidelines_wrkdoc_2017-11813.pdf

2)EU Reference Laboratories of Pesticides Residuesのホームページ
 http://www.crl-pesticides.eu/docs/public/tmplt_article.asp?CntID=727&LabID=100&Lang=EN

 

参考文献

1) 本ガイダンスの文中に引用されているEUの規則、指令の参考HP:
(これらのEU規制については、インターネットの検索サイトで、 例えば“Regulation (EC) No. 882/2004”と検索すれば検出できます)

Article 12 of Regulation (EC) No. 882/2004
on official controls performed to ensure the verification of compliance with feed and food law, animal health and animal welfare rules
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2004:165:0001:0141:EN:PDF

 

Article 28 of Regulation (EC) No. 396/2005
on maximum residue levels of pesticides in or on food and feed of plant and animal origin and amending Council Directive 91/414/EEC
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2005:070:0001:0016:en:PDF

 

Directive 2002/63/EC
establishing Community methods of sampling for the official control of pesticide residues in and on products of plant and animal origin and repealing Directive 79/700/EEC
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32002L0063&from=en

 

Regulation EU No.152/2009:
laying down the methods of sampling and analysis for the official control of feed
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:054:0001:0130:EN:PDF

 

2) 同時期に食品検査として考慮すべき抽出効率に関して、以下の技術ガイドラインが改訂/発行されています。

Technical Guideline on the Evaluation of Extraction Efficiency of Residue Analytical Methods
(残留分析法の抽出効率の評価に関する技術指針)

SANTE 2017/10632 Rev. 3 22 November 2017
https://ec.europa.eu/food/sites/food/files/plant/docs/pesticides_mrl_guidelines_wrkdoc_2017-10632.pdf

 

3) ISO/IEC17025:2017、2017年11月30日発行)

邦訳ISO/IEC17025:2017(対訳)が2017年12月15日に日本規格協会から発行されています。JIS化は2018年夏頃になる予定です。
https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0070/index
2005年版に比較し、ISO/IEC9001との連携が強くなり、要求事項の構成が大幅に変更されています。

 

4) 2年前の同じガイダンスであるSANTE/11945/2015については、残留農薬分析国際交流会のホームページにて暫定和訳が添付されています。)

HP¥技術情報¥海外行政のサイト→
http://zanryu-nouyaku.org/technical/docs/sante_11945_2015.pdf
(なおこのサイトには残留農薬分析に係るAOAC・IUPAC・EU・Eurachemのガイドラインやガイダンスが紹介され、直接アクセスできるようになっています。ここで取り上げましたSANTE/11813/2017原本についてもアクセスできるようになっています。)

 

執筆者のプロファイル

廣田政隆(ひろた まさたか)
残留農薬分析国際交流会・幹事
関連分野:化学会社、分析機関を退職後、残留農薬分析、ISO/IEC9001、ISO/IEC17025、の分析サービス分野のコンサルティング、GLPシステムのコンサルティング等に関わっています。

 

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